H-MTD®が注目される理由|車載イーサネット×高速通信を実現する次世代コネクタの全貌

はじめになぜH-MTD®が注目されるのか?

近年の自動車業界では、自動運転技術の進化やADAS(先進運転支援システム)の発展に伴い、車両内でのデータ通信量が飛躍的に増加しています。

高解像度カメラやLiDAR、ミリ波レーダーなどのセンサーが発するデータをリアルタイムで処理するためには、高帯域幅・低遅延の通信ネットワークが不可欠です。

RosenbergerのH-MTD®(High-Speed Modular Twisted-Pair Data)コネクタは、車載イーサネットをはじめとする高速データ伝送を実現する車載用コネクタとして、多くの自動車メーカー様やTier1サプライヤー様に採用されています。

さらに、USCARのイーサネットコネクタEthernet Connector)として、インターフェースを公開しており、今後車載イーサネットの標準コネクタとしても更に採用が加速することが予想されます。

本記事では、H-MTD®コネクタの技術的特徴、用途、選定時のポイント、業界動向について詳しく解説します。

目次

H-MTD®コネクタの基本概要

 H-MTD®とは?

H-MTD®(High-Speed Modular Twisted-Pair Data)は、次世代の高速データ伝送を実現するためにRosenbergerが開発した差動コネクタです。

車載イーサネットAutomotive Ethernet)、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転システムなど、多岐にわたる用途での高速・高信頼性のデータ伝送を可能にした

次世代の標準インターフェースとして注目されています。

また、単に高速通信対応コネクタではなく、高EMC性能・STP/UTP両対応・高周波特性・耐環境性といった、車載に求められる全ての要素を兼ね備えた次世代コネクタです。

 H-MTD®の主な特徴

高周波数対応と高速データ伝送

DC to 20GHzまでの広範な周波数帯域に対応し、最大56Gbpsのデータ伝送を可能としています。​

高解像度の映像データや大量のセンサーデータをリアルタイムに処理することが可能となり、ADASや自動運転システムの高度化に寄与します。 ​

多様なケーブルタイプへの対応

STP(シールド付きツイストペア)、UTP(シールドなしツイストペア)、SPP(シールド付きパラレルペア)など、さまざまなケーブルタイプに対応しています。​

これにより、設計者はシステム要件や環境条件に応じて最適なケーブルを選択する柔軟性を持つことができます。​

※対応ケーブルによりコネクタ名称を分けております。(STP:H-MTD® 、UTP:H-MTD®e)

高い信頼性と耐久性

LV214やUSCARなどの自動車業界標準に準拠しており、厳しい車載環境下でも高い信頼性と耐久性を発揮します。​

豊富なラインナップによる柔軟性

H-MTD®はモジュール設計を採用しており、1ペアから6ペアまでの多極構成や、防水仕様、水平・垂直タイプ、電源ピン追加タイプなど、多様なバリエーションを展開しています。​

これにより、車両の設計要件やスペース制約に応じた最適なコネクタ構成を実現できます。 ​

下記は、ラインナップの一例となります。その他、CPA機構品や嵌合音対応品もございます。

 H-MTD®の基本電気特性

 H-MTD®主な用途と適用プロトコル(Protocols

主な用途

H-MTD®コネクタは、高速データ伝送が求められる車載アプリケーションに幅広く使用可能です。

■車載イーサネット(Automotive Ethernet)

100BASE-T1、1000BASE-T1、 2.5/5/10GBASE-T1 などの規格に対応。

ツイストペア(STP/UTP)ケーブルに対応し、軽量化とコスト削減を実現。

■ADAS(先進運転支援システム)・自動運転

LiDAR、カメラ、ミリ波レーダーなどのセンサーデータ伝送。

低遅延・高信頼性の通信が求められるシステム向け。

■インフォテインメントシステム

4K・8Kディスプレイへの映像伝送。

高音質オーディオデータの伝送。

■データロギング・診断システム

車両状態のリアルタイム監視・データ収集に活用。

オンボード診断(OBD)用ネットワークにも適用。

  

適用プロトコル(Protocols

■車載イーサネット(Automotive Ethernet)

・ 100BASE-T1

・ 1000BASE-T1

・ 2.5/5/10GBASE-T1

■SerDes

・ APIX®

・ FPD-Link

・ GMSL™

・ MIPI® A-PHYSM

・ PCIe®

・ USB

・ GVIF

・ HDBase-T™

・ ASA Motion Link

H-MTD®のインターフェースについて

ローゼンバーガーが主導で規格化を推進した『FAKRA』・『FAKRA-mini (HFM)』・『HSD』と同様に、H-MTD®のインターフェースは次世代の差動コネクタとしてオープンインターフェース化(標準化)を目的とし、USCARへの登録が行われています。

 インターフェース標準化への思い

H-MTD®インターフェースの標準化が進むことで、自動車業界全体に以下のような大きな利点がもたらされています。

■ 世界共通仕様による普及促進

FAKRAの事例と同様に、世界的に統一されたインターフェース仕様となることで、自動車メーカー様・Tier1メーカー様はコネクタの仕様を共通化でき、部品調達・設計が効率化されます。

特に、高速・大容量通信が求められる次世代の車載ネットワークでは、特定の国や地域に限定されないグローバル調達が可能となり、市場の拡大に貢献します。

■ 異なるデバイス間の接続性向上

標準化されたインターフェースにより、異なるメーカーやサプライヤー製のECU・カメラ・センサー間でもシームレスな接続が実現します。

設計者は、デバイスごとに異なるコネクタ仕様に合わせて個別に対応する必要がなく、ワイヤーハーネス設計の共通化、設計ミスの削減、検証効率の向上につながります。

■ BCP(事業継続計画)リスクの低減

インターフェースが標準化されることは、調達リスクの分散という点でも大きなメリットがあります。

特定メーカー独自仕様のコネクタに依存しないため、自然災害や地政学的リスク、サプライチェーンの停滞時にも他メーカー製品への切り替えが容易。

これはBCP(事業継続計画)上、極めて重要な観点であり、自動車メーカー様・Tier1メーカー様の安定生産体制確保に貢献します。

■ ECU評価・検証作業の効率化

H-MTD®インターフェースをECUや各種制御ユニットに標準採用することで、機種ごとに異なるコネクタ仕様による評価・検証作業が不要になります。

試作品から量産機種まで同一インターフェースを用いることで、設計・試験・量産移行までの期間短縮と開発コスト削減が可能となります。

特に複数車種を横展開するプラットフォーム設計においては、この標準化効果は非常に大きなものとなります。

 

 標準化インターフェース(H-MTD®インターフェース)採用時の注意点

標準化の一方で、H-MTD®のインターフェース仕様が公開され標準化されているのはあくまで”物理的嵌合部の形状”に限定されており、以下の重要事項についてはコネクタメーカーごとに異なります

■ 電気性能・防水性能の違い

各コネクタメーカーが提供する接点の形状、接圧設計、シールド構造、使用素材によって、伝送損失、EMC性能、防水性は異なります。

高周波伝送性能、耐環境性、嵌合作業性、防水等級、組立性は、一律ではありません。

■ 粗悪品・コピー品への注意

公開されているインターフェース形状だけを模倣した粗悪な互換品も市場で散見されます。

これらは規定(OPEN Alliance TC2,TC9、USCARや各種SerDesの要求仕様)の電気性能・防水性能を満たさない場合が多く、実車搭載後に通信性能NG、接点腐食、異常温度上昇などの不具合要因となるリスクがあります。

■ 異なるメーカー品の混在使用のリスク

異なるコネクタメーカー同士で嵌合自体は物理的に可能ですが、接点の圧力・形状が異なるため、電気接続の信頼性低下や防水性能の劣化が発生する可能性があります。

長期信頼性、環境耐性の担保が困難となり、不具合時の責任分担も曖昧になりやすいのが現実です。

 推奨事項

設計初期段階で、信頼できるコネクタメーカーを選定し、設計書に明記すること。

通信性能においてはSパラメータ・挿入損失・リターンロス・EMC特性等の実力値確認と、各社の検証データの取得を必ず実施。

異メーカー混在は原則避け、組み合わせが必要な場合は十分な評価試験を実施し、保証の明確化を行うことが重要です。

H-MTD®のアッセンブリ(組立)について

H-MTD®の中継コネクタ(Wire to Wire Connector)は、ワイヤーハーネスのコスト削減と高効率な自動組立プロセスの両立を実現するよう設計されています。

高速な製造ラインでの組立を可能にしつつ、部品コストの優位性を確保するため、ハーネスに使用する端子部品はすべて板金加工品(プレス品)を採用しています。

このため、加工精度が高く、かつ量産効果を最大限に引き出すことが可能です。

さらに、製造工程の柔軟性にも配慮されており、同一の製造ライン上でアプリケーター(端子圧着機)を交換するだけで、容易に製造仕様の変更が可能です。

これにより、生産切り替え時の段取り替え作業が最小限で済み、設備の稼働率を最大化できます。

また、H-MTD®コネクタは特殊な構造を持たず、複雑な生産工程を必要としない設計となっているため、製造現場においても効率よく生産対応が可能です。

自動車メーカー様・Tier1メーカー様向けに全世界規模で標準品の安定供給を行うことができ、部品調達におけるスケールメリットを享受いただけます。

実際のアッセンブリ工場の様子

   

適用ケーブルについて

H-MTD®コネクタで使用するケーブルは、次世代高速通信(~20GHz)に対応する電気特性と機械的耐久性を満たすことが前提です。

特に、高周波帯域での信号品質やEMC性能を確保するため、すべてのSTP・UTPケーブルが適用できるわけではありません。

また、自動機での加工にも最適化されている必要があります。

H-MTD®を採用するメリット

H-MTD®コネクタは、高速データ伝送を求める次世代車載ネットワークにおいて、設計・生産・品質すべての面で大きなメリットを提供します。

 STP/UTP両対応による設計の自由度

H-MTD®は、STPとUTP両方に対応しています。
アプリケーションごとのEMC性能要件やコスト・重量バランスに応じて、最適な構成を選択可能です。

・STP仕様(H-MTD®)

高EMC対策が必要な1000MBase-T1以上の EthernetやADAS・自動運転システムに最適。

・UTP仕様(H-MTD®e)

100MBase-T1の Ethernet、軽量化やコスト重視のインフォテインメントシステムなどに最適。

複数車種やプラットフォームを跨いで採用する場合でも、同一インターフェースで仕様切替が容易であり、設計の共通化と工数削減が図れます。

例えば、多極仕様の場合、UTPケーブルを使用した 【100MBase-T1 Ethernet】 システムと、STPケーブルを使用した 【1000MBase-T1, Multi-Gig Ethernet】,【LVDS】等を組合わせて使用する事が可能です。

 世界中の自動車メーカー(OEM)様での認証・採用実績

H-MTD®コネクタは、すでに世界各国の主要自動車メーカー様での採用・認証実績を誇ります。
これにより、国内自動車メーカー様はもちろん、海外自動車メーカー様に対しても同一インターフェース仕様のままご提案が可能で、車種・地域を問わず設計共通化・ECUの標準化がスムーズに進められます。

特にグローバルプラットフォームを展開するTier1メーカー様にとっては、仕向ごとの仕様変更や再評価の負担を軽減できる点が大きなメリットです。

 主力IC・チップメーカー様との連携による信頼性

H-MTD®コネクタは、主力のIC・チップメーカー各社の製品開発段階から通信性能の検証に参画し、最適化と品質確認を実施しています。

各社の車載イーサネットやSerDesチップとの通信性能を事前に評価済みのため、自動車メーカー様・Tier1メーカー様は、信頼性が担保されたH-MTD®コネクタを安心して導入できます。

 測定アダプター・評価用ボードの提供

H-MTD®コネクタは、開発段階での通信性能検証をスムーズに進められるよう、各種評価用ボードや測定ツール類を提供しています。

実機評価前にEMC試験(IEC 62153-4-7 )や高周波特性検証を行うことができ、設計・検証工数の削減することが可能です。

試作フェーズでは、期待されるパフォーマンスを検証 するために、測定用アダプターの準備 が必要となります。

測定精度を向上させるためには、最小限の挿入損失 と 最適化された反射特性を備えた高精度アダプターの選定が重要となります。

まとめ|H-MTD®は次世代車載ネットワークの標準コネクタ

自動運転やADASの進化、インフォテインメントの高度化により、車載通信の大容量・高速化は今や必須となっています。

その中で、H-MTD®コネクタは、性能・設計自由度・生産性・信頼性のすべてを兼ね備え、業界標準として多くの自動車メーカー様・Tier1メーカー様で採用されています。

 H-MTD®の主な特長

H-MTD®コネクタは最大20GHz対応・56Gbps伝送で次世代車載通信に最適です。

STP/UTP/SPP対応で1~6ペア構成など多彩なラインナップのご用意があります。

実際に標準インターフェースとして世界中の自動車メーカー様で採用されている実績があります。

EMC性能・耐環境性も備え、ADAS、自動運転用途に適合しています。

 設計・調達・生産での導入メリット

主力IC・チップメーカーと開発段階で通信性能を検証済みのため、安心して設計に組み込み可能。

同一インターフェースでSTP/UTP切替可能、複数車種・プラットフォーム間で仕様統一が容易です。

世界各国の自動車メーカー様で認証済みのため、グローバル展開時も仕様変更不要です。

自動組立に対応した設計で、製造効率とコストメリットを両立可能となっています。

 評価環境の充実

車載イーサネット・SerDes対応の評価用ボード・測定アダプターを提供。

EMC試験や高周波特性検証を開発初期段階でスムーズに実施でき、検証工数を削減。

 標準化インターフェース使用時の注意点

H-MTD®コネクタの標準化は物理インターフェースのみで、電気性能・防水性能はメーカーごとに異なります。
粗悪な互換品や異メーカー混在は通信性能低下や信頼性リスクを招くため、信頼性試験データの確認・メーカー指定が重要です。

 最後に

H-MTD®コネクタは、通信性能・設計自由度・量産性・調達効率・信頼性すべての面で、次世代車載ネットワークに最適な選択肢です。

導入検討時は、仕様に応じた最適な構成・ケーブル提案、評価環境の提供も可能ですので、ぜひローゼンバーガーオートモーティブジャパンまでご相談ください。

監修者

1990年~車載アンテナメーカーである株式会社ヨコオに入社。衛星通信機器の電気設計及びセラミックアンテナ及びフィルターの設計に従事し、その後車載通信機器事業部の電気設計管理職となり主に車載アンテナの開発を遂行。2018年~高周波コネクタ製品のトップシェアメーカーであるローゼンバーガーの日本法人であるローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパン合同会社に転職し、車載通信機器の開発で培った知識を生かし、マネージャーとして各OEM及びTier1へ製品の市場導入サポートを行っています。

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