車載コネクタの基礎と最新技術|選び方から応用事例まで徹底解説

自動車の電子システムが進化する中で、車載コネクタは信号伝送や電力供給の要として欠かせない存在です。

自動運転技術や電気自動車(EV)の普及に伴い、コネクタには従来以上の高性能、高信頼性が求められています。

この記事では、車載コネクタの基本的な役割や種類、選定基準について詳しく解説します。

特に「同軸コネクタ」や「差動コネクタ」の性能や用途、選定ポイントを網羅し、自動車産業における重要性を明らかにします。

さらに、世界的なコネクタメーカーであるローゼンバーガーの製品を例に、高速データ通信や高周波信号伝送のニーズに応える最新技術についても紹介します。

目次

車載コネクタの基礎知識

車載コネクタの役割

車載コネクタとは、電子部品やシステム間を接続し、電力や信号を効率的に伝達するための部品です。

自動車内部にはさまざまなセンサー、アクチュエーター、通信モジュールが搭載されており、それらを正確かつ安定して機能させるためにコネクタは欠かせません。

用語解説、、、アクチュエーター:電気・空気圧・油圧などのエネルギーを機械的な動きに変換し、機器を正確に動かす駆動装置

主な役割は以下の通りです:

  • 電力供給:エンジンやバッテリーから各デバイスへ電力を分配
  • 信号伝送:センサーや制御モジュール間でのデータ通信

車載コネクタが求められる性能

自動車用コネクタには、過酷な環境でも信頼性を保つための特別な性能が求められます。

以下のポイントが特に重要です。

  1. 耐環境性能:高温・低温、振動、衝撃に対する耐性
  2. 電気的性能:高周波信号への対応、挿入損失(Insertion Loss)や反射損失(Return Loss)の最小化
  3. シールド性能:電磁干渉(EMI)からの保護
  4. 小型化と軽量化:車両全体の省スペース化と効率化に対応

このような特性を備えることで、車載コネクタは高度化する自動車技術に対応し、安全で効率的な車両運用を支えています。

車載コネクタの種類と特徴

車載コネクタには、自動車の用途や使用環境に応じてさまざまな種類が存在します。

代表的なものに「同軸コネクタ」と「差動コネクタ」があります。

それぞれの特徴と用途を以下に詳しく解説します。

同軸コネクタとは

同軸コネクタとは、同軸ケーブル(後述)と電子機器を接続するコネクタです。

同軸ケーブルの断面は円形になっており、中心から内導体、絶縁体、外導体、外部被覆となっています。

「同軸」の名前はこの内導体と外導体が同じ軸に配置されていることによります。

これにより、外部からの電磁波干渉を抑える設計となっています。

主に車載カメラや車両間通信(V2V)、センサーデバイスなど、高速周波数が必要な場面で使用されます。

  • 主な特徴
    • 高いシールド性:その構造により外部からの電磁波干渉を受けにくい
    • 低損失:信号の損失が比較的少ない。そのため長距離伝送にも適している
    • 特性インピーダンス:50Ω、75Ωが主。ローゼンバーガーの同軸コネクタは50Ωを適用している
  • 主な用途
    • 車載カメラシステム(例:360度カメラ、バックカメラ)
    • レーダーシステム(例:ミリ波レーダー)
    • 車両間通信(V2V)やインフォテインメントシステム

差動コネクタとは

差動コネクタとは、差動ケーブル(後述)と電子機器を接続するコネクタです。

2本の信号線が対になっており、互いに逆位相の電圧信号を伝送し、その差分を出力します。

これにより、強いノイズ耐性を得る事ができます。

この出力方式から「差動」の名前がついています。

高速通信や高精度が求められる車内ネットワークや制御システムで多く利用されます。

  • 主な特徴
    • 強いノイズ耐性:伝送方式からくる強いノイズ耐性をもち、安定した通信が可能
    • 高速伝送:1Gbps以上でのデータ伝送が可能
    • 特性インピーダンス:100Ωや90Ωが多く使用されている
  • 主な用途
    • 車内LAN(例:Ethernet)
    • ADAS(先進運転支援システム)
    • USBやHDMIなどのインフォテインメント接続

同軸コネクタと差動コネクタの選定基準

自動車のさまざまな用途に応じて、同軸コネクタと差動コネクタを選定する際の基準を以下にまとめました。

選定ポイント

  1. 用途と使用環境
    • 高周波信号を伝送する場合:同軸コネクタ
    • 高速データ通信を行う場合:差動コネクタ
  2. 耐環境性能
    • 過酷な振動や温度変化に対応する必要がある場合は、両者とも高い耐久性を備えた製品を選ぶ。
  3. 設計の自由度
    • スペースや重量が制限される場合は、同軸コネクタが有利。

メリット・デメリット

  • 同軸コネクタ
    • メリット:小型化・軽量化が容易、高速通信に対応
    • デメリット:シールド性能は外部環境に依存する場合がある
  • 差動コネクタ
    • メリット:優れたシールド性能、高周波信号伝送に最適
    • デメリット:サイズが大きく、重量が増加しやすい

同軸ケーブルとは

同軸ケーブルは電気信号を伝送するためのケーブルの一種で、

中心から内導体、絶縁体、外導体、外部被覆という構造になってる。

「同軸」の名前はこの内導体と外導体が同じ軸に配置されていることによる。

車載環境では、カメラやレーダーシステム、通信モジュール間の信号伝送に広く使用されています。

主な特徴

・高いノイズ耐性:外導体によるシールド効果で外部ノイズの干渉を受けにくい
・長距離伝送:低損失での伝送が可能
・柔軟性:比較的柔らかく、複雑な配線にも対応可能
・高周波数対応:高い周波数信号の伝送に優れる

主な用途

  • 車載カメラ(例:バックカメラ、360度カメラ)
  • レーダーシステム(例:ミリ波レーダー)
  • 車両間通信(例:V2V、V2X)

同軸ケーブルに求められる性能

  1. 電気的性能
    • 適応できる周波数帯域:高周波信号への対応
    • Insertion Loss(挿入損失):信号の減衰を抑え、高品質な伝送を維持
    • Return Loss(反射損失):信号反射を最小限に抑えることで通信品質を向上
    • シールド性能:外部ノイズからの保護
  2. 機械的性能
    • 構成部品の説明:内部導体、絶縁体、外部シールド、外装被覆など
    • 耐環境性能:振動や温度変化への耐性、柔軟性と耐久性のバランス

同軸ケーブルの種類

  • 1.5D系ケーブル
    • 特徴:小型・軽量で扱いやすい
    • 用途:短距離伝送や小型機器向け
  • RG系ケーブル
    • 特徴:耐久性とシールド性に優れる
    • 用途:長距離伝送や高信頼性が求められる場面

差動ケーブルとは

差動ケーブルは2本の信号線が対になっており、互いに逆位相の電圧信号を伝送し、その差分を出力する。

この出力方式から「差動」の名前がつく。

車載環境では、高速通信を必要とする場面で広く採用されています。

主な特徴

・ノイズ耐性が高い:両方の信号線に同じノイズが乗っても、「電圧差」を出力する為、影響が少ない
・高速伝送:低ノイズ故、信号振幅を小さくでき、高速伝送が可能となる
・低消費電力:信号振幅を小さくできる為、消費電力を低減できる

主な用途

  • 車内LAN(例:Ethernet)
  • ADAS(例:カメラやレーダー信号の伝送)
  • インフォテインメント(例:USB、HDMI接続)

差動ケーブルに求められる性能

  1. 電気的性能
    • 適応できる周波数帯域:ギガビット通信対応
    • Insertion Loss(挿入損失):信号の減衰を防止
    • Return Loss(反射損失):信号品質を維持
    • シールド性能:ノイズ耐性の向上
  2. 機械的性能
    • 構成部品の説明:ツイストペア構造、絶縁体、シールド材
    • 耐環境性能:車載の振動や温度変化に対応

差動ケーブルの種類

  • UTPケーブル(非シールドツイストペア)
    • 特徴:柔軟性が高く、コストパフォーマンスに優れる
    • 用途:短距離通信や一般的な車載ネットワーク
  • STPケーブル(シールド付きツイストペア)
    • 特徴:外部ノイズ耐性が向上
    • 用途:中長距離通信や干渉が多い環境
  • STQケーブル(シールド付きツイストペア+追加シールド)
    • 特徴:さらに高いシールド性能を持つ
    • 用途:高精度通信や特殊用途向け

ローゼンバーガーにおけるコネクタ

弊社の製品は、自動車業界が求める最新技術や高い基準を満たし、ADASやインフォテインメントシステムなどの高度な用途に対応しています。

車載コネクタには、自動車の用途や使用環境に応じてさまざまな種類が存在します。

代表的なものに「同軸コネクタ」と「差動コネクタ」があります。

それぞれの特徴と用途をローゼンバーガーの製品ラインナップと共に以下に解説をします。

ローゼンバーガーの同軸コネクタ

FAKRA(Fachkreis Automobil)コネクタ

FAKRAとは自動車産業向けに設計された高周波同軸コネクタの標準規格を指します。

ISO 20860-1&2、USCAR17&18規格を基に規定されており、主に自動車における通信・信号伝達の為に仕様されます。

ローゼンバーガーにおいては下記2種類のコネクタを設定しています。

  • FAKRA2
    • 主な用途:通信アンテナ/Teoematics/移動通信/BT/カメラ 等
    • 特徴:高周波性能とEMC耐性に優れる。切削工程で製作される
    • 性能:最大6GHzまでの信号伝送対応
    • 対応可能ケーブル:1.5D系、RG系ケーブル
  • FAKRA SF
    • 主な用途:通信アンテナ/Teoematics/移動通信/BT/カメラ 等
    • 特徴:生産性とコストを重視。プレス成型(Stamped and Formed)で製作される
    • 性能:最大3GHzまでの信号伝送対応
    • 対応可能ケーブル:RG系ケーブル

HFM(High-Speed FAKRA-Mini)コネクタ

HFMコネクタは、弊社オリジナルの自動車産業向け次世代高周波同軸コネクタ。

USCar&LV214の世界的な自動車規格に準拠。

  • 主な用途:自動運転車のカメラ、車載レーダー、車両間通信
  • 特徴:高データレート伝送が可能。また従来のFAKRAに比べ最大80%の省スペース化を実現
  • 性能:対応周波数_Max 20GHz、データ伝送速度_Max 28Gbps
  • 対応可能ケーブル:高周波対応ケーブル全般

ローゼンバーガーの差動コネクタ

HSD(High-Speed Data)コネクタ

高速差動データ伝送のLVDS(低電圧差動信号)用途のコネクタです。

ローゼンバーガー主導でのUSCAR規格登録を行っています。

  • 主な用途:インフォテインメントシステム、カメラシステム、ADAS
  • 特徴:STQ(Shielded Twisted Quad:ペア線x2ライン)仕様。クロストークや外部ソースからの干渉を防ぎながら高データレートでの伝送が可能
  • 性能:最大1Gbps通信対応
  • 対応可能ケーブル:STQケーブル

HSDt(High-Speed Data Single-Line)コネクタ

HSDコネクタに対し、STP(Shielded Twisted Pair:ペア線x1ライン)ケーブルに対応したコネクタです。

主な用途や特徴はHSD(High-Speed Data)コネクタと同様になります。

MTD(Modular Twisted-pair Data)コネクタ

MTDコネクタは、UTP(Unshielded Twisted Pair:ペア線x1ライン)ケーブル専用のEthernet用途の差動コネクタです。

  • 主な用途:車内LAN、センサーシステム
  • 特徴:小型でありながら優れた伝送・電気的性能を実現
  • 性能:100Mbpsおよび1Gbps用
  • 対応可能ケーブル:UTPケーブル

H-MTD(High-speed Modular Twisted-pair Data)コネクタ

H-MTDコネクタは、次世代高速LVDS及びEthernet用途で開発された新しい標準インタフェース差動コネクタです。

ローゼンバーガー主導でのUSCAR規格登録を行っている

  • 主な用途:自動運転車、ADAS、5G通信対応システム
  • 特徴:高速データ転送対応/STP、UTPを共通インターフェイスで対応可能
  • 性能:周波数20GHz、データ通信速度56Gbps対応
  • 対応可能ケーブル:STPケーブル、UTPケーブル

ローゼンバーガーの製品は、自動車業界での使用に最適化された設計と最新技術を融合し、次世代の車載通信を支える強力なソリューションを提供しています。

車載コネクタ・ケーブルの応用事例

自動車の技術革新が進む中で、車載コネクタとケーブルは、より高度なアプリケーションを支える重要な役割を果たしています。

以下に具体的な応用事例を挙げ、車載技術の進化とともにこれらの製品がどのように利用されているかを解説します。

1. 電気自動車(EV)

電気自動車の普及に伴い、車載コネクタとケーブルは電力供給や通信を最適化するために使用されています。

  • 用途
    • バッテリーシステムの電力供給
    • 高電圧系統の接続(例:DC急速充電器)
    • モーター制御用信号伝送
  • 要求される性能
    • 高電流対応
    • 耐熱性・耐振動性
    • 高周波数対応の通信性能(例:バッテリー管理システム(BMS))

2. ADAS(先進運転支援システム)

ADASは、車載センサーやカメラ、レーダーが連携して機能するシステムであり、車載コネクタとケーブルの信号伝送性能が重要な役割を果たします。

  • 用途
    • レーダーやライダー(LiDAR)のデータ伝送
    • 車載カメラからの映像データ送信
    • ECU(電子制御ユニット)間の通信
  • 要求される性能
    • 高速通信(1Gbps以上)
    • EMI耐性(電磁干渉への強さ)
    • 小型化と軽量化

3. インフォテインメントシステム

インフォテインメントシステムは、車内でのエンターテイメントと情報通信を提供し、快適なドライビングエクスペリエンスを支えています。

  • 用途
    • 車内LAN(Ethernet)の通信
    • USB・HDMI接続によるデバイス間のデータ送信
    • 車内Wi-Fiや5G通信モジュールの接続
  • 要求される性能
    • 高帯域幅対応(最大10Gbps以上)
    • データ信号の整合性
    • 高いノイズ耐性と安定性

4. 自動運転システム

自動運転技術では、リアルタイムでの膨大なデータ処理と伝送が求められ、車載コネクタとケーブルが中心的な役割を担います。

  • 用途
    • 車両間通信(V2V)および車両とインフラ間通信(V2I)
    • AI処理ユニットとのデータリンク
    • 高精度地図データのダウンロード・アップロード
  • 要求される性能
    • 超高速通信(最大18GHz対応)
    • 信号劣化のない長距離伝送
    • 耐環境性能(温度変化、振動、湿度)

5. 5G通信対応システム

次世代の5G通信は、低遅延で高帯域幅の通信を可能にし、自動車業界にも大きな影響を与えています。

  • 用途
    • 自動運転のリアルタイム通信
    • 車内のIoTデバイス間通信
    • 高精度なリモートモニタリング
  • 要求される性能
    • 超高速データ伝送
    • ノイズ耐性の向上
    • 低遅延通信の実現

総括すると、車載コネクタとケーブルは、現代の車両が求める多様な機能に対応し、自動車の性能と信頼性を高めるための基盤として機能しています。

それぞれの用途に応じた最適な選定が、次世代車両の安全性、快適性、効率性を支えています。

まとめ

車載コネクタとケーブルは、自動車技術の進化を支える不可欠な要素です。

特に、自動運転技術や電気自動車(EV)、インフォテインメントシステムなどの高度な機能が求められる現代において、その重要性はさらに高まっています。

車載コネクタ・ケーブルの選定ポイント

  • 用途に合わせた選択
    同軸コネクタは高周波信号伝送、差動コネクタは高速データ通信に適しています。それぞれの特徴を理解し、適切な製品を選定することが成功の鍵となります。
  • 耐環境性能の確認
    車載環境は厳しい条件下で動作するため、耐振動性、耐熱性、シールド性能などが重要です。
  • 最新技術への対応
    車両全体の小型化・軽量化、さらには5G通信や高周波対応といった未来のニーズを見据えた選択が求められます。

ローゼンバーガーが提供する価値

ローゼンバーガーは、自動車業界が求める高い基準を満たすコネクタとケーブルを提供することで、次世代の車載技術を支えています。

たとえば、FAKRAやHFMコネクタによる高周波通信対応、HSDやH-MTDコネクタによる高速データ通信の実現は、弊社製品の信頼性と技術力の証明です。

次世代技術に向けて

車載技術は今後も進化を続け、より高速で安全、かつ快適な移動を実現するためのソリューションが求められます。

ローゼンバーガーのような革新的な製品を活用することで、次世代自動車の設計と開発をさらに推進できます。

この記事を通じて、車載コネクタやケーブルの基本的な知識、選定ポイント、そして応用事例を理解していただけたと思います。

次世代の車載技術に最適なソリューションを見つけるための参考にしていただければ幸いです。

監修者

1990年~車載アンテナメーカーである株式会社ヨコオに入社。衛星通信機器の電気設計及びセラミックアンテナ及びフィルターの設計に従事し、その後車載通信機器事業部の電気設計管理職となり主に車載アンテナの開発を遂行。2018年~高周波コネクタ製品のトップシェアメーカーであるローゼンバーガーの日本法人であるローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパン合同会社に転職し、車載通信機器の開発で培った知識を生かし、マネージャーとして各OEM及びTier1へ製品の市場導入サポートを行っています。

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